始めに断っておくが、ラーメンの替え玉ではない。
替え玉受験の替え玉である。
佐村河内氏に対する稲垣隆氏の意味の替え玉である。
先日行われていた箱根駅伝でも、過去に替え玉事件があったらしい。
某日本大学が大学生選手の代わりに、普段は人力車をひいている大山さんという車夫にバイト代を出して走らせた。そこまでして勝ちたいか、と思うが恐らくそこまでして勝ちたかったんだろう。大山さんもお金が喉から手がでるほど欲しかったに違いない。
しかし、大山さんは腕をピッタリと腰につけて走る、いわゆる車夫の走り方であった上に、さらに前を走る選手を抜くときに「アラヨーッ!」という、車夫独特の掛け声をあげていたらしい。もちろん余裕で替え玉が発覚し、陰謀が白日の下にさらされた。
そう、大山さんはシンプルにアホだったのである。
アホに替え玉を頼んではいけないという歴史の教訓である。
話が逸れたが、何を隠そう私は替え玉に憧れている。
やらなきゃいけない、けど面倒くさいということを全て優秀な替え玉に押し付けたい。
それで浮いた時間を私は全て酒池肉林に充てたい。
例えば美容院に行くのも替え玉にやらせたい。
結構髪が伸びてきた。切りにいかなくてはならない、でも面倒である。
なぜ髪は伸びるのか。一定のお気に入りの長さで固定されて欲しい。
「じゃあこれ4000円だから、私の代わりに行って来てくれ。」
私の替え玉は必ず命令に従うので、すぐに予約の電話をかけ始める。
「すいません、カット、シャンプー、お顔そり全てやるかと聞かれましたけど。」
替え玉は電話越しに私に尋ねる。
ヒゲも結構伸びてるし、お顔そりまで頼むわ。と私が言うと、その通りに替え玉が美容師に伝える。優秀な替え玉だ。
大山さんならアホだから、
「ボク替え玉なんですけど、抜け毛が気になるんでシャンプーは弱酸性でお願いします」と言ってしまうに違いにない。
お前の都合は聞いてない。あくまで私の替え玉なのだ。替え玉をアピールする必要性もない。
すぐに切ってもらえるらしく、替え玉は私っぽい恰好をして家を出ていった。
いつも利用している美容院の髪を切る時間は約1時間。
往復の時間を考えるとなんと1時間半もの時間を酒池肉林に充てることが出来る。
最高でしかない。
しかし、あいにく私には肉林のツテがないので、コンビニで金麦を買い、自宅で寂しく1人で酒池するのだ。
1時間半ほどすると替え玉が返ってきた。
いつもより多めにすいてください、と言ったのかかなりさっぱりしている。
「これお釣りです。」替え玉は私に、律儀に200円を返す。
え~~~、いいよ~~それで好きなもの買ってきなよ~~金麦とか~~、と私は言う。
バイト代だ当然だ。雇用主と雇用者の信頼関係を保つためには、労働に見合った給料の授与が当然である。それをケチっただけでデモやストライキを起こされて、私の酒池肉林の時間が削られるのは本末転倒である。
でも大山さんなら何も言わずに、200円を懐に入れるに違いない。
私の替え玉はかなりの人格者である。髪もさっぱりしてるし。
「また、2か月後にたのむよ。」
当然、髪もヒゲもボーボーのままの私は言った。
アホに替え玉を頼むのもよくないが、
アホが替え玉を頼むのもよくない。
替え玉はやめましょう。犯罪です。