無駄のないあがき

日々に疲れている全ての人類に癒しを。20代の人間による妄想×銭湯=癒しのブログ。

話の腰を折られた人の手術をする医者

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この間積ん読していた手塚治虫のブラックジャック文庫版全17巻にようやく手をつけ、一気に全部読み終えた。

 

ブラックジャックの詳しい説明は割愛させていただくが、

簡単にいうと無免許の天才外科医が活躍する漫画である。

 

大変面白かったのは言うまでもないのだが、

読むとめちゃめちゃ医者になりたくなる。医者カッケー。

 

なぜ受験の時に医学部を選ばなかったのか。高校生時代の自分にブラックジャック文庫版全17巻をメルカリを通じて売りつけたい念に駆られる。

 

まあ流石に今から医学部に入り直して医者を目指すというのも非現実的なので、

私もブラックジャックみたいに無免許で医者になりたい。

人に迷惑をかけずに私でも直ぐになれるような方法はないだろうか。

 

 

 

 

「今日はどうされたんですか」

 

憧れの白衣に身を包んだ私は、物憂げな表情をしている患者にそう問いかける。

 

「実は先日友人とカフェで話をしている時に、話の腰を折られてしまいまして、、」

と患者は答える。

 

「なるほど、話の腰を折られたんですね。どのように折られたんですか。」

私はここでどのように腰を折られたのか、どの程度折られたのかをヒアリングする。

余談ではあるが、患者の間で私の親身に寄り添うようなヒアリングを、「レントゲン」と呼んでいるらしい。

 

「『先週、日曜日に渋谷で買い物をしてたんだけどさ』と私は他愛のない話をしようと話し始めました。別に特段オチのある話ではありませんよ。でも友人に聞いて欲しくて、、、そうしたら、もう『してたんだけどさ』のタイミングで友人が言ったんです。

 

『俺も渋谷で買い物行ったわ!!!!!その時にさ、』と、、

 

そのまま彼のターン。私は話したい話を聞いてもらえず、そのままその話題は終了しました。先生、お金はいくらでも出すので手術してください!!」

 

 

「なるほど。それは俗にいうスチール型骨折ですね。」私は厳かに告げる。

話の腰を折られる人には2パターンある。①話題を相手に取られる話題泥棒によるスチール型の骨折と②相手に話題を全く違うものに変えられるチェンジ型の骨折だ。

 

話題泥棒型の患者の手術は簡単だ。相手の話を一回じっくりと聞いてあげれば良い。

 

「お金はすごいかかりますよ、少なく見積もって1000万円ですね。」私は言う。

 

「1000万、、、、、そんなお金ありません!!」と患者はいうが、私はそれなら諦めてくださいと冷酷にも告げる。

 

「わかりました、、お金はなんとかします。。一生かかってでも支払います!!どうか手術をしてください!!!」

 

私も鬼ではない。分割払いでも仕事は引き受ける。最近リボ払いも始めた。

額を床に擦り付けて懇願する患者に私は優しく声をかける。

 

「頭を上げてください、わかりました。あなたの話を聞かせてください。渋谷で買い物をした時の話を。」

 

患者はあ、ありがとうございますと呟き、床に正座をした状態で話し始めた。

 

「先週、日曜日に渋谷で買い物をしてたんですけど、その時にお店の中で友人のタケルによく似た人を見かけたんです。タケルとはもう10年以上会っていません。こんなところで会うとはと、声をかけようと思いましたが10年経っていますので、確信が持てず、、私はタケルの顔を真正面から確認するため、恥ずかしながら店を出るタケルを尾行しました。ちなみにタケルは一人でした。」

 

なるほど、続けてください、と看護師が持ってきたカルテを見ながら私は促す。

ちなみにカルテには「渋谷のTSUTAYAによく行くそうです」という看護師による走り書きのメモがある。どうでもいい。

 

「私はタケルの後をつけました。店を出た後、彼は道玄坂を小走りで上って行ったんです。何を急いでいるのか、彼がどこに行くか見当もつきませんでしたが、私は人通りの多い渋谷で彼の姿を見失うまいと必死で彼を追いました。運動不足なのできつかったです。ほら、私中学高校大学とずっと文化部でしたし。」

 

知らないわ、という言葉を飲み込み、私の口は「ああ、文化部もいいですよね。知的な感じで。」と適当に答えた。

 

「私はゼエゼエ言いながらタケルを追いました。果たして彼はどこに行こうとしているのか。後を必死について行くと彼はコメダ珈琲に入りました。トイレかな、と私は思いましたよ、急いでいたし。私も後に続いてコメダに入りました。」

 

コメダいいですよね、シロノワール好きです。と私は相槌をうつ。食べたことはない。

 

「そして彼の顔が正面から見える席に移動しました。そこで気づきました。タケルじゃなかったんです、人違いでした。結局その人が小走りでコメダに向かった理由もよくわかりません。彼はシロノワールを美味しそうに食べていました。シロノワールが食べたくて小走りしていたんですかね。」と患者は晴れやかな顔をして言った。

 

喉元まできていた「時間を返してください」をぐっと堪え、「シロノワール美味しいですもんね。あなたの話が聞けてよかったです。」と私は言う。しつこいがシロノワールは食べたことはない。

 

「先生のおかげで折られた話の腰が治りました」と満足そうな顔をしている患者に私は言う。

 

「ところで、最初に1000万と申し上げましたが、やっぱりやめましょう。その代わり、私にシロノワールを奢ってください。あなたの話を聞いたらコメダのシロノワールが食べたくなった。今私は、シロノワールに1000万払えるほどシロノワールが食べたい。なのでそれでチャラにしましょう。」

 

患者は涙を流して言う。

「え、、えええ、、うっ、ううう、、ありがとうございます!ありがとうございます!この恩は一生忘れません、、、喜んでシロノワールを奢らせていただきます、、」

 

私は言った。

「いいんですよ、ほら行きましょうコメダに。天気も良いんで、小走りで向かいましょう。あなたの話の彼のように。」

 

 

私と患者は小走りでコメダ珈琲に向かう。

私はシロノワールがどう言う食べ物なのか、まだ想像すらついていない。

 

 

とはいえ、生まれて初めて食べるシロノワールにワクワクしているのは事実。走るペースが少し早まってしまう。


後ろから、運動不足の「待ってくださいよ~」という悲鳴が聞こえてくる。

 

 

上機嫌の私に釘を刺すように私の中のブラックジャックは言う。

 

「しぬほど話面白くなかったよね。」


 

 そうね。1000万も貰えなかったし。

 

明日は天狗になり過ぎて鼻をへし折られた患者の手術です。